2008年08月07日

(短編)無題02

 それは、記憶の片隅に残る、温もりのように。

・ネタばれ率:本筋にはほとんど影響ないはずだけど、Refrainクリア推奨。
・時系列が怪しい。誰か具体的な日付を記載した、虚構世界と現実世界を含んだ時系列をおくれ。
・なんとなく書いてみたくなったけど、途中からわけがわからなくなった。よくあることです。
・人物取り違えの修正と誤字の修正と、鈴の呼称を修正。こっちの方がよりあってそう。
・さらに後日クドの呼称も修正。
 



「……直枝理樹、あなたはそこで、何を馬鹿なことをしているの?」

 いつものように放課後の巡回を行っていると、空き教室の中でドアにへばりついている人間を見つけた。まあおそらくは、ろくでもないことをやってるのだろうが。

「いや、ちょっとたちの悪い鬼ごっこを」

 そういう彼の右手には、銃器の形をしたものが握られていた。大方エアーガンもしくは赤外線を照射するたぐいのものだろう。

「あなたたちのことだから、たちの悪い、という部分は聞かないことにしておくわ」
「うん、そうしてもらうと助かるよ。あと、出来れば早めにそこをどいてもらえると、人目に見つかりにくいから助かるなあ」

 私が風紀委員の長だというのをすっかり忘れているらしい。左腕に巻いた腕章を見せつけようかとも思ったけど、意味のない行為に思えたのでやめておく。代わりに。

「あの、二木さん? なぜこちらに?」
「特には」

 なんとなく、彼の横に並んでへばりついてみた。

「これ、面白いの?」
「い、いやあその、ドアにへばりつくの自体はひんやりして気持ちいいな〜くらいしかないと思うけど」
「そう」

 確かに、ドアはこの暑さの割には冷たさを保持していて、頬をくっつけると気持ちがいい。

「そう、って納得されても困るけど」
「あなたがそう言ったのでしょう?」
「ま、まあそうだけど……あ、あとこの鬼ごっこもどきは楽しいよ?」
「ちなみに実弾は?」
「赤外線が出るやつだから、他の人にけがを与えたりはしないと思うよ。首より上の高さを狙うのも禁止にしてるし」

 妙なところでルールが細かい。おもちゃの赤外線照射なのだから、失明の危険はないと思うけど、万一を考えておく姿勢だけは誉めたい。

「ちなみにこれ、何人でやってるの?」
「今は鈴とクドと小毬さんと葉留佳さんの5人でやってる。みんな素早いから気を抜けないんだ」

 ……少しばかり、自分のルームメイトと自分の妹の将来が不安になってくるのはおいとおいて、どうやらメンバーは今復帰している人間全員のようだった。通常の半分の人数な上に騒がしい人間があまりいないために、それほどうるさくなってないらしい。
 まあ、これならいいか。

「そう。ところで、銃はまだあまってるの?」

 これならいいか、と思った私は、何故か参加希望としか思えないセリフを吐いているのだった。



 ***



 と、いうわけで。自分で言い出した癖によくわからないけど、私の右手には直枝理樹が持っていたものと同じ銃があった。
 いったん集まって私が参加するといったとき、どこかの妹が「え、ええええええ!?」と盛大に驚いていたのはまあ当然なので置いておく。

 廊下を静かに歩き、あたりの気配を気にしながら進んでいく。
 ルールは簡単。銃の射程は10メートル、身体に取り付けた赤外線探知機が反応すればアウト。自分の銃の光が当たっても反応するらしい。一回撃たれたら退場。その後に攻撃するのもなし。同時に打ち合って両方とも反応した場合は、両者アウト(撃たれた後に撃ったものは無効だが、撃たれる前のものは有効とのこと)。一人が勝ち残った時点でゲーム終了、らしい。敗者は撃たれた後にほかのメンバーにメールで自己申告後、終わるまで部室で掃除をしながら待機しなければならない、らしい。さらに携帯の電源はONにして、音も大きい状態に設定しておかないといけないらしい。設定範囲は校舎の中のみで、移動は歩きだけ、外に出たり(ベランダはOK)走ったりしても見つかったらだめ、らしい。さらに、他人の迷惑になるような行為もNG。

「なんだか風紀委員対策はばっちり、って感じね」

 その委員長がやってるのもまた横に置いておきながら、ゆっくり進む。
 近づくときに走ってこない、というのは案外攻撃側に不利なように見えて守備側にも不利なことに気づく。忍び足で背後から近づかれたら、足音が小さい分気づきにくいのだ。

 普段の学び舎が、徐々に別の空間へと変貌を遂げていく。

「っ!?」

 通り過ぎた教室の中から物音が聞こえ、あわてて振り向く。が、誰もいない。

「……なるほど、たちの悪い鬼ごっこだわ」

 今までに味わったことのない、いい意味でのスリルに、私は飲み込まれ始めていた。



 ***



 メンバーの誰にも会わぬまま、時間が過ぎていく。その間に三階と二階は回りきったのだが、出くわすのは「委員長、夏の暑さにやられましたか?」の類の言葉だけ(まだ全部ではないが抱えてた問題が少し解決したので、少しくらい遊んでみたっていいじゃない)で、相変わらずの緊張感はあるものの、少し拍子抜けしていた。
 このまま誰とも出くわさずに時間切れになったりして、と思ったところで、不意にポケットに入れた携帯がメールの着信音を鳴らし始めた。
 あわてて取り出し、決定ボタンを連打して音を消しながら、メールの本文を見てみると、「私、神北小毬は、能美クドリャフカに撃たれました。く、くやしいよぅ」との文面。すぐに退場しそうなクドリャフカが勝った、というのだから侮れない。

 それよりも。

「今の音、他には聞こえなかったわね……」

 最大音量なので、それなりに響くはずなのに、耳には一切入ってこなかった。どうやら私は仲間はずれの状態のようだ。
 もっとも、ゲームの性質を考えるとこのまま誰にも遭遇せずに過ごし、最後一騎打ちまで持っていくのが賢いとは思うが、それだとなんだか、面白さを大分削ってるようにも思える。
 さて、どうしたものだか。

「まあ、止まってるのは危険以外のなにものでもないわね」

 物陰に隠れでもしない限りは、立ち止まると狙撃されること間違いない。
 歩きながら、どうすれば他の人間に出会えるのか考えていると、ふと狙撃、という言葉がもたらす響きが気になった。
 ルールの関係上、正面衝突を起こすと両者共倒れになる可能性がある。ということは必然的に背後を取られぬよう相手に正面から出くわさぬよう背後をとる、もしくは物陰に息をひそめて狙い澄ます、のどちらかの戦法をとるのが賢明だ。そのためには、相手の行動をよく覚えておく必要がある。
 が、私はその範疇外の人間だ。葉留佳はさておき、他のメンバーとはそれほど交流があるわけではないから、私がどういう行動パターンをとるかはわかっていない。ある種、姿の見えない敵となっているわけだ。もちろんこちらも同じなのだが、初挑戦ということもあってプレッシャーはそれほどあるわけではなく、心理的に有利、かもしれない。そして、相手がわからないときは、人間基本に忠実になるものなのだ。

 なら。

「正攻法、よりも奇襲よね」

 近くの教室のドアをガラガラと勢いよくあける。当然音がするが、無視。

「ほら、出てきなさい。簡単に撃ち落としてあげるわ」

 いるかどうかはわからないが、誰もいない教室内に声をかけてみる。
 動きは、まったくない。
 カーテンに向けて適当に撃つが、音はならない。

「外れか。まあいいわ。次に行きましょうか」

 そう言って、次の教室へ。それを繰り返していく。
 時折、生徒が残っててこちらを訝しげに見てくるが、「単なるストレス発散よ」というとみんなあっさりと納得していた。どうやら私はストレスをため込みやすいタイプ、と思われているようだ。事実だが。

 何回か同じことを繰り返すと、不意に教室を出る間際に音がした。姿は見えないので、どこかに隠れているのだろうが、撃ちにいくとおそらく撃たれるのだろう。

「次行きましょうか」

 そう宣言して、後ろの気配に気をつけながら廊下を進む。気配自体はないものの、勘があってればこちらの様子をうかがってる人物が、教室のドアに隠れているはずだ。それを意にも介さないふりして、教室側と反対側に設けられた女子トイレのドアを開け、「ここにはいないかしら?」と声をあげて入っていく。
 入った瞬間に大急ぎで奥に進み。呼吸一つ。
 それからおもむろに、洗面所の鏡に向かって銃を乱射した。


 ちゅどーん、と、実に安っぽい効果音が、廊下から聞こえてきたのだった。



 ***


「な、なんでですかぁ〜?」

 そこにいたのはクドリャフカだった。

「機械の故障なのでしょうか……」
「そんなわけないでしょう、クドリャフカ。あなたは私に撃たれたのよ」
「か、佳奈多さん!?」

 どうやらクドリャフカは、自分が撃たれた理屈がまだわかっていないようで、表情に思いっきり「混乱しています」と書かれていた。

「どうやって撃ったんです? 佳奈多さんは間違いなくトイレの中にいたのに」
「それはもちろんトイレの中から撃ったのよ。タイミング見計らって、鏡の反射を利用して。このくらいの光なら鏡もちゃんと反射してくれるわよ」
「そ、そんなぁ……ざっつとぅてれぶる、なのです」
「クドリャフカ、混乱して英語が思いっきり間違ってるわよ……」

 おびき出し自体は奇襲だったが、鏡の反射はこの遊びなら割とポピュラーだろうと思ってたのだが、どうやら違うようだった。そこだけは少し幸運だ。

「ほら、クドリャフカ。みんなにメールを打ちなさい。私に撃たれましたって」
「佳奈多さん、なんだかとっても楽しそうです」
「ええ、意外と人を撃つのって楽しいのね」
「そ、それはなんだか語弊を生みかねないですが」

 少しして、クドリャフカの敗北宣言が私の携帯にも届く。それに続いて、二通目のメールも。

「あ、葉留佳さんも退場みたいですね。鈴さんが撃ったとのことです」
「そう、残念だわ……」

 自分で何で残念のかはわからないのだが、まあとりあえず一気に残り二人だ。

「頑張ってください佳奈多さん。理樹と鈴さんは強敵ですよ」
「ええ、あなたの分も含めて勝ってくるわ」



 ***


 クドリャフカと別れて既に30分。あの二人に出くわすことなくさまよい続けていた。
 ……あの世界を経験した二人のことだ、生半可な奇襲では勝ち目がないだろうと、クドリャフカに勝ったときの策は使わず、ただひたすら廊下を静かに歩き続けていた。

「……どうしようかしら、ね」

 相手の行動パターンが読めないのはやはりつらい。
 直枝理樹はおそらく待ち伏せパターン、だろうとは思う。スタート前に見つけた時も、ドアに隠れて狙撃しようとしていたのだし。ただ、私が見つけた、ということもあるので、やり方は変えてくるだろう。
 問題は、棗さんの方だ。まったく、読めない。性格からして一か所にとどまるタイプではないと思うのだが、これだけうろちょろしても出会わないとなると、私と全く同じ行動パターンが、真反対の行動パターンか。どちらにせよ、難しい。

「適当に、教室で待ち伏せてみようかしら」

 どうも動くと面倒なことになりそうだし、そろそろ足が疲れてきたというのもあるので、適当に教室に入って待ち伏せ作戦を選択してみる。
 がらっと開けて、教室の中へ。

「っ!?」
「うわっ!?」

 反対のベランダ側に棗さんがいた。
 大慌てで外に出てドアを閉め、周囲の動きを探る。ベランダのドアが閉まる音がしたので、教室の中に潜んだか、ベランダ伝いに他の教室から来るか、の二択。さてどうするか。

「うわ、鈴!?」
「え!?」

 とか思ってると、隣の教室から直枝理樹が飛び出してくる。
 思わず顔を見合わせる二人。とっさのことで銃を撃つ余裕もない。
 一つ呼吸を入れて、素早く教室の中へ。占め際に牽制の発射をしてみるが、当たり判定は出なかった。

「……しまった、これだと挟み撃ちかも」

 彼が出てきたということは棗さんがベランダにいるのが確定したので教室内は逆に安心かと思って入ってみたのだが、よく考えれば袋小路。どちらにも逃げにくい。しかし入った以上は仕方ないので、前方の教卓に隠れ、コンパクトを取り出して鏡で様子をうかがってみる。

 しばらくすると、後方のベランダ側の扉が開き、慎重に棗さんが入ってくる。

「二木、ここにいるのはわかってる。もう逃げられない」

 しかも、一丁前の言葉とともに。あたりを十分警戒しながら侵入してくる様はなかなかどうして形になっている。
 入って少し進んだ後、彼女は歩みをとめ、じっとあたりを見渡し始める。それはそうだ、下手に動いて物陰から撃たれたらたまったものではないのだから、とどまり続けるのは得策といえる。
 だが同時にそれは硬直状態に陥ることにもなる。こちらはこちらで、物音ひとつ立てるわけにはいかない。幸いなことに、コンパクトには気付かれてないのが勝機、かもしれない。だが、距離があるのでコンパクト越しの反射射撃は望みにくい。

「隠れる場所といったら、掃除ロッカーか教卓しかない。どっちだ?」

 推理自体は的を得ている。机の下なんかに隠れられない以上、その二択でいい。だが、それだけでは向こうに勝機はない。かといってこちらも、なのだが……賭けに出てみるか。

 慎重にポケットの中身を探り、そこそこに硬いものとしてボールペンを発見。コンパクト、銃のそれぞれを確認してから、ボールペンを投げ、反対側にコンパクトを回しながら床に滑らせる。一か八か。彼女には負けたくない。

「そっちか!!」

 ボールペンの方向に進む彼女。その反対側から身を乗り出し、コンパクトへひたすら銃を発射して……

 例の、安っぽい効果音を轟かせたのだった。

 同時に開け放たれる前方廊下ドア。

「もらった!」

 勝利を確信したかのような直枝理樹の声。だが、一応そこまでは織り込み済みだったので、すぐに身を後方へと投げて斜線上から机の下に逃げつつ反撃する。
 どちらも、撃たれた音はならない。距離3メートル。
 だが。

「う、うあ」

 なぜだか彼の同様した声。同時に、敗者報告のメールすら打ち終わってない棗さんの声。

「理樹っ! 今二木のを見ただろ!」
「い、いや見てないよ見てない。うん見てない」

 ……そっと、自分の格好を見やる。そういえば、スカートだった。ハーフパンツなどは暑いので履いてないので、まあ何が見えたのかは想像に難くない。

「いいや確かに見てた。見とれてた。一瞬えっちな顔してた」
「いやそんな顔してないしそもそも見てないって」

 なんだか最後だけ締まりがないなあ、と思いながら、棗さんへの弁明に追われてる彼のがらあきの背中へと、銃口を向けるのだった。



 ***



「今日はなかなか楽しかったわ」
「そ、それはどうも」

 部室へ敗者達を迎えに行く途中。彼は決して私に顔を合わせようとはしなかった。どうやら相当気恥ずかしいらしい。こちらも恥ずかしいと言えば恥ずかしいのだが、あの世界でもっと恥ずかしいことをしてるせいもあって、そこまでではない。

 ……そうか、やっぱりそこまでは覚えていないのかしら。

 まあ、わかっていたことではあるが、残念でもある。
 あの世界で起きたことが事実だったからこそ、今葉留佳は生きているのだし、そして私と(校内限定で)元の関係に戻すこともできたのに、その肝心の当事者は強さ以外忘れてしまっているのだから、何とも言えない。

 棗さんの方はというと、さっきの彼の表情があまりに残念だったのか、フンと顔をあらぬ方向に向けたままだ。どうやら相当お気に召さなかったらしいのだが、事故だし仕方ないのでは、というフォローをする気にはなれない。その仕草が、どことなく彼を独占したいような意味を持ってる気がしたからだ。それもまた、あの世界を終えた後の今では仕方ないのだが。

 そうなるように、世界が作られていたのだし。

 いっそのこと、全部忘れてしまってたら楽だったのに。
 いや、それだと葉留佳とのことすらなしになってしまうので、彼への感情と、あの約束だけ忘れられたらよかったのに。
 それだったら、妙な思いを抱かずに、自分の人生なんだと納得して先へ進んでたのに。

 気づけば、足を止めていた。

「あれ、二木さん?」

 いぶかしげに振り返る直枝理樹。

「どうしたの?」
「いえ、ちょっと、ね」

 歩みを再開。いくら考えても仕方ないし、望んだ答えが出るものでもない。歩くしかない。

「そういえば二木さんって、考え事してるときとかよく前髪をいじってるよね」
「……癖なのよ。でもあまり人前ではしないように気をつけてるはずだけど」

 緩んでたところもあったのだろう。指摘されて手を下す。それから顔をあげると、彼の横にいた棗さんが、不思議そうな眼で私たちを見ていた。

「あたしは見たことなかったぞ。理樹はどこで見たんだ?」
「さ、さあ……」

 ……ん?

「自分でもよくわからにんだけど、なんかよく見た気がするようなしないような……」
「なんだそれは。もしかして理樹は夢の中に二木を登場させてたのか。やっぱりえろえろだな」
「いや違うから、たぶん」

 先ほどと同じように弁明しながらも、彼の表情にも「自分の言葉が信じられなかった」という驚きが出ている。

 ……もしかしたら。もしかするのかもしれない。まだ、はっきりとはわからないけど、もしかすると、やっぱりもしかするのかもしれない。

 すっと、手を前に差し出す。

「この手は?」

 まだ混乱気味なのでちょうどいい。一種の、予行演習なのだ。



「私を、連れて行って。……直枝くん」



 まあその後色々棗さんにいろいろ疑われたり、結局渋々ながらも部室まで引っ張って行ってくれたのでそこにいたメンバーにいろいろ疑われたりしたのだが、またそれは別の話。

 手の温かさは、あの時となんら変わりはなかった。 
posted by ys at 07:08| Comment(2) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
誤字というか人物が途中で変わっていたので報告させてもらいますね
理樹と鈴と佳奈多の三つ巴の戦いのとき鈴と理樹が入れ代わってます

佳奈多、かわいいですね
Posted by 名無し at 2008年08月07日 14:19
 ご指摘ありがとうございます。思いっきり間違えてました。さらに言うと自力で鈴を凛としてたのも見つけてしまいました。

 佳奈多はかわいいです、ハイ。
Posted by ys at 2008年08月07日 15:08
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